Friday 4 May 2012

2012年スコットランド地方選挙

エディンバラの投票所の様子

5月3日にスコットランド地方選挙が行われました。全国にある32の地方議会の1200を超える議席が争われました。前回の地方選挙は2007年に行われ、以下のような結果が出ていました。


SNP、労働党、自由民主党、保守党の4大政党が得票・議席の80%以上を占め、ひとつの党による多数派形成が難しい状況を作り出していました。

・2007年からの変化

この2007年の地方選挙から5年が経ち、英政府は労働党政権から保守党と自由民主党による連立政権に代わり、スコットランド政府はSNPの少数政権からSNPの単独多数派政権になりました。今回は国政ではなく地方選挙なので、主要な争点は各都市各地方の個別的な問題になります(たとえばエディンバラではトラム(路面電車)をめぐる市議会の迷走、グラスゴウでは多数派を形成する労働党市議会議員のあいつぐスキャンダル、自由民主党と保守党が多数派のアバディーンでは新市庁舎をめぐるお金の問題など)。

またこうした地方独自の争点に影響を与えるのが国政レベルの政治動向です。まずイギリス全体でみると、連立内閣への批判が高まってきており、保守党と自民党は議席を大きく減らすことが予想されていました。イングランドでは保守党と自民党への批判票はまるまる労働党がいただくことになるのですが、スコットランドではそれをSNPと労働党で取り合うことになります。じつはSNPと労働党は経済・社会福祉政策的にはほとんど変わりはないので、SNPと労働党の争点はいうまでもなく独立問題になるわけです。SNPとしては、この地方選挙で労働党を大きく上回り、独立を問う住民投票に向けて弾みをつけたいところです。労働党としては、保守党と自民党の支持層は反独立ですから、その票が流れるのはSNPではなく労働党であることが期待できるので、SNPを出し抜いて地方選挙の第一党に躍り出たいところです。

はたして、2012年の地方選挙の結果は以下のようになりました。


見ての通り、自由民主党が80減と大きく議席を減らし、また保守党も16減と、英政権への批判をもろに受ける形になりました。それを奪い合ったのがSNPと労働党でしたが、前者が57増、後者が58増と、ほぼ互角。どちらとも成功・勝利に値すると言えますが、会心の勝利、と言うわけにはいきませんでした。

細かく見ていくと、相次ぐスキャンダルで労働党への支持が落ち込んでいたグラスゴウ市議会では、SNPが総力を結集して選挙に臨んだと言われていますが、労働党がSNPの挑戦を退け、多数派を維持しました。グラスゴウとその周辺はもともと労働党への支持が非常に強く、労働党からすると、この地域を失うことは党の存在の基軸が揺らぐほどのダメージになります。いっぽうSNPからすると、グラスゴウを取ることで労働党にたいする完全な優位を示すことができるので、なんとかして労働党支配を切り崩したかったのですが、今回は労働党がふんばった模様です。

いっぽうSNPはもともと労働党の影響力が強かったダンディー市で多数派を形成し、またダンディー郊外のアンガスでも勝利を収め、地方議会ではじめて多数派を形成することに成功しました。SNPはいまでこそスコットランド議会で多数派を形成していますが、2003年の地方議会選挙の時には獲得議席数は180あまりで、当時500を超える議席数を誇った労働党の対抗勢力にはなりえませんでした。国政レベルでも地方政治レベルでも、SNPが多数派を形成できるようになったのはここ最近の出来事なのです。

・二大政党制へ拍車?

この10年のスコットランド政治をかんたんにまとめると、労働党の影響力低下とSNPの躍進、となるでしょう。地方選挙の結果にもそれは顕著に表れています。

保守党の影響力も年々弱まってきているいっぽう、自民党は存在感を維持することが課題となってきています。自民党は、英議会レベルでは労働党と保守党の二大政党制を切り崩す第三党として力をつけてきましたが、政策的に大きく異なる保守党と連立内閣を組んだことにより、そのアイデンティティを失い、支持層が離れてしまいました。保守党の支持がスコットランドで伸びることは今後まずないことを考えると、自民党の存在感低下により、スコットランド政治がSNPと労働党による二大政党制に向かいつつある可能性を、今回の地方選挙は示唆したと言えるでしょう。

しかし話はそう単純ではなく、上の選挙結果の表でも見たように、全国で32ある地方議会のうち、ひとつの政党が単独多数を形成するのはわずかに9議会にすぎません。残りの23の地方議会では、政党同士の連立で多数派を形成しているのです。こうした現状を生んでいるのは、多数派形成を難しくするスコットランドの選挙システムなのですが、これについてはまた後で解説することにしましょう。

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